AK-47

 この史上空前の傑作軍用銃について、整理して、総括を試みてみたいと思う。
 いろいろ書こうかと思ったが、面倒なので簡単にまとめる。

○まずはこの銃をめぐる事実または事実と思われるもの

 1947年元鉄道技術者のカラシニコフ氏によって開発されたこの銃は以下の特徴を持っていた。
  (1)取り扱いの簡便性 大祖国戦争ソ連兵は玉石の石が多く繊細な銃を持たせることができなかった。このため分解、組み立ての用意な8パーツ銃となった。
  (2)生産性 高度な職人芸も設備も不要。そして量産がきく。
  (3)耐久性 ロシアの戦場は泥濘や雪に悩まされる。過酷な環境でも射撃できるように機関車の技術を応用して、砂塵の中でも、薬きょうをふみつけて歪んだ弾丸でも発射できるタフさを実現した。
 (1)(2)だけなら満たす銃は他にもある。特に(2)はドイツが一歩先んじ、カラシニコフ氏はこれにならっている。しかし、他の銃は(3)の点で問題を備えている場合が多かった。
 AK47の問題点は反動が強く、子供兵などが連射するとだんだんのけぞって最後は空を撃つような羽目になる点である。優秀だが、旧式なのである。

 ソビエト連邦は同盟国にライセンスをばら撒いた。同盟国では弾丸などの補給と生産ラインを整備し、ライセンスが切れても更新なしで現在も製造を続行している。

 耐久性が高いため、中古でも十分再使用に耐える。

 ソ連は自国でのAK-74配備のため旧式のAK-47を同盟国に放出した。このため、同盟国では当面AK47が主流となって、ライセンス供与されてもAK74はあまり普及しなかった。

 中古や多数の生産国という供給元の多さのため、安値で供給される。

 このため、銃本体が過剰となっている地域で、住民を守る政府の存在しない地域では子供を略取して銃を持たせ、前線の盾とするといった行為が発生する。

 銃が過剰になっていない地域でも、資金が潤沢であれば第三国経由の密輸で高価買い入れを行っている。安全装置に簡単な細工を行って連射機能を止めただけの中国製AKが米国経由で南米の麻薬シンジケートに密輸されていたこともある。出荷元はもちろん最後に誰が使っているかは「知らない」。

 ソマリランド共和国AK47を国家で管理することに成功し、最貧国といわれながらも治安は格段によい国となっている。

○総括

 AK-47は一世代以上古いが軍用銃として史上まれなる傑作銃だ。
 後続のAK-74のほうが新しい軍事思想に適応している分、優秀な銃だが、普及していない。AK-74が優れているのは携行弾数がほぼ倍となり、弾丸補給なしに戦闘行為を倍の時間継続できること、反動が小さくなるため連射すると的からそれがちだった点が改善され、より有効な射撃が行えること。耐久性、殺傷力では劣らない。
 性能だけでいえばより優秀なAK-74が普及できなかった原因は、東ドイツ崩壊とソ連崩壊にともなう大量放出、ライセンス料なしで生産を続行する旧東側諸国による供給、それに優秀な耐久性による豊富な中古市場といった飽和状態と、需要元が犯罪者や犯罪者に毛の生えたような組織、あるいは敵もご同様の新興国で一線級のものを必要としないという事情がある。
 本来、軍用銃は出荷元で最終使用者証明(どこそこの警察、など)を元に犯罪組織などに流れないように制御されているのだが、この証明を実際には違うのに発行したり、出荷先の政権が倒れて放出されたり、第三国を経由して最後は密輸など売る側の販売努力によって制御しきれていない。
 この現象により、銃が過飽和であり、複数の政治結社は口ばかりの犯罪結社が争う地域で無政府状態の場所では強制連行による子供兵という現象が発生している。AKを持った子供兵の射撃はその反動ゆえ有効ではない。が、メンテナンスフリーの設計によりとにかく射撃できるという点ではやくざの抗争に毛が生えた程度の勢力争いや略奪行為には十分となる。相手の銃声が自分たちよりたくさんすれば、命惜しければ逃げる道理である。それに、略取すればいくらでも補充できるはずの子供兵なら少々失っても惜しくない。(「カラシニコフ」によれば、指揮官の「妻」であった少女兵はこのため最前線に出されることなく比較的安全にすごしたという)
 さて、これらの問題は何に原因しているか?
 AK-47という銃の傑作性ゆえか? NO。優秀さだけでいえばいま世界で問題を起こしているのはAK-74ということになる。AK-47という銃はその優秀性に加えて、第二次世界大戦後の冷戦構造の初期というタイミングを得たことによって世界の軍用銃スタンダードの地位を得たのだ。スタンダードゆえに、紛争のあるところどこでも使われるているし、犠牲者を殺す銃のトップとなった。時代はこのような銃を欲していたし、カラシニコフ氏がこの銃を開発しなくても似たようなスペックの銃が開発され、流布されていただろう。それがなくともAKより簡単で、同じ薬きょうを使用するSKSカービンという銃がすでにあった。またPPS短機関銃というやはり同様スペックのサブマシンガンもあった。AK-47はこの両者の長所を兼ねた銃であり、カラシニコフ氏がいなくてもいずれ異なる名前、異なる設計だが同一コンセプトのものが出ていたはずである。そしてその銃を用いて救いのない殺し合いをやっているのは、欧州の線引きした区画で国家としての一体感も国民の意識も責任感さえないまま生まれた失敗国家群だ。
 冷戦構造は崩壊したが、第二次世界大戦、いやそれよりもっと古い時代からの負の遺産清算されないかぎり、AK-47を象徴とする悲劇に終わりはこない。